インド、ビハール州ブッダガヤ
今朝もダライ・ラマ法王はガンデン・ペルゲ・リン(ナムギャル僧院)から法話会場のカーラチャクラ・グラウンドに歩いて向かわれた。法王の滞在先であるブッダガヤのナムギャル僧院を代表して同僧院規律長が、法話会の主催者を代表してガンデン僧院シャルツェ学堂とジャンツェ学堂の両法主が、慣習に従って法王をエスコートした。3人は黄色い袈裟を纏い、てっぺんに鶏冠のような飾りのついた丈のある黄色い帽子を被り、線香を手にして法王を先導した。帽子の鶏冠部分はたくさんの細い糸を精巧に立てることで作られているが、この糸は現在の劫(賢劫)に現れるとされている千の仏陀を象徴すると口伝の伝統によって伝えられている。そして帽子全体が黄色であるのは、戒律を清浄に保持することを示し、裏地の白と黄色、帽子の縁の赤い色は、観音、文殊、金剛手の三種の守護尊を表していると言われている。
法王は、会場への道すがら、何度も足を止めて聴衆に向かって手を振られ、時には個人的に挨拶を交わされた。会場に到着されると、カーラチャクラ堂内の釈迦牟尼仏像と仏画に向かって礼拝されてから、法座に着かれた。
今日は、まずミャンマーの僧侶たちが『吉祥経(マンガラスートラ)』をパーリ語で誦経し、続いて『般若心経』が、モンゴル語、ロシア語、日本語、英語で順番に唱えられた。
法王はまず初めに、昨日は不快感があり少し体調を崩されたが、休息を取って静養され、人々が善良な意図をもって祈願を行なってくれたお陰で、午後には快方に向かわれたと説明された。そして法王は、1万6千人以上に膨れ上がった聴衆に向かって、今日はこれからラマ・ウマパに始まる近伝の系譜である文殊を巡る一連の法の中から白勝楽(チャクラサンヴァラ)の長寿灌頂を授与すると告げられた。
そして法王は、次のように述べられた。
「私はこの灌頂をずいぶん前に授かりました。そしてこの灌頂の儀軌次第に関連する真言念誦と風(ルン:生命エネルギー)の瞑想を毎日実践しています。この修行法は特に退廃した時代に修習すると恩恵をもたらすと言われています。最終日にこの灌頂を授与することで、今年のブッダガヤでの法話会を吉祥な結びとすることができるでしょう」
「そこで、まず皆さんの心のなかの動機を確認しなくてはいけません。『得難い人間の恵まれた生を得て、出会い難い仏陀の教えに出会ったのだから、何としても他のために役立つことをしよう』と思って、一生懸命努力しなくてはいけません」
「菩提心は生きとし生ける者の病を治すための最もよい手段であり、煩悩を鎮めるための治療薬です。この薬ひとつで自分も他人も癒すことができます。こわばった心を柔軟にするために、思いやりなどの善き徳性を育み、心を訓練しなければなりません」
そして法王は、長寿灌頂の儀式における観想方法を伝えられ、受者を灌頂へと導かれた。灌頂の途中で、儀軌次第に則って、僧侶たちが受者たちに長寿の丸薬と甘露を配って回った。灌頂の授与が完了すると法王は次のように述べられた。
「文殊を巡る一連の法の残りの灌頂を全て授与できる機会に恵まれることを願っています。多くの皆さんと来年もここで再びお会いできることを期待しています。その時には皆さんの修行の成果について報告していただけたらいいですね。以前、私が修行の結果として理解したことを、私の師に報告した時のことを思い出します。その時先生は『あなたはすぐにちょっとした虚空瑜伽行者になりそうですね』とおっしゃったのです」
「皆さん、努力を惜しんではいけません。法話会に沢山参加しても、あなたの理解が進まず、あたたかい心も生じなければ、それは残念なことだと言わざるを得ません。教えを聞くことで得られる智慧(聞慧)、思惟によって得られる智慧(思慧)、瞑想・修習によって得られる智慧(修慧)という三つの智慧を拠り所にして自分の心を訓練してください。私は家庭教師のグドゥップ・ツォクニ師の指導を受け、70年近く空性について瞑想してきました。菩提心の瞑想に関しては、最初大変難しく思えたのですが、シャーンティデーヴァ(寂天)の『入菩薩行論』とナーガールジュナ(龍樹)の『宝行王正論』のテキストを勉強し、努力を続けてくることができました。皆さんもそのように実践していけば、きっと心に良き変化が起きてくるでしょう。聴聞した教えや、読んだテキストの内容を、日々実践していくように努力しなくてはいけません。それこそが長寿を得て達成するべき目的なのです」
「明日は中央チベット政権(CTA)、ナムギャル僧院、シェルカー・ガシャップの共催で、私のために白ターラー菩薩の儀軌に基づく長寿法要を執り行なってくれる予定です」
そのように告げられると、法王は法座から降りられた。そして笑顔で手を振りながらステージを後にされ、ナムギャル僧院内の法王公邸に戻られた。