インド、テランガーナ州 ハイデラバード
ダライ・ラマ法王は今朝、ハイデラバード市内を速やかに移動されて、ダライ・ラマ倫理センター(the Dalai Lama Center for Ethics)南アジア本部の建設予定地に到着された。マダプールのハイテックス・ロード沿いに建設される同センターは、マサチューセッツ工科大学に拠点を置くシンクタンクとテランガーナ州政府の支援による共同事業となる。
ハイテックス野外アリーナで行われた起工式には、1,000人を超える人々が出席し、さらにおよそ1万5千人がインターネット中継を介して参加した。ダライ・ラマ倫理センターの創設者の挨拶に続いて、法王は次のように述べられた。
「私はいつも、“私の兄弟姉妹である皆さん”と呼びかけてご挨拶をしてから話を始めます。なぜなら、私は70億人の人間のひとりであり、そのように考えるならば、私たちは兄弟姉妹であるからです」
「長年にわたるインドの伝統であるアヒンサー(不殺生・非暴力)の土台は、恐れではなく、信頼と思いやりです。異なる宗教の調和が花開いたのは、その例と言えるでしょう。時には問題が生じることもありますが、それを別にすれば、インドはすべての伝統宗教が互いを尊重しながら共存している唯一の国家なのです」
「古代エジプト文明、中国文明、インダス文明を比較すると、インダス文明はきわめて多くの哲学者やさまざまな哲学学派を輩出していることがわかります。仏教哲学もまた、そのひとつであり、ナーランダー僧院で培われた古代インド思想は、心と感情の働きについて今日も多くのことを教えてくれます。現在のインドは、古代インドの遺産である人間の心のよき本質を高めるための教育と、現代教育を組み合わせることができるという特別な時機にあります。すでに多くの若者たちが、私たち人間が持っているよき心の本質を高めるための教育を受け始めています。この倫理センターもまた、さまざまな教育カリキュラムや活動を通して、人間の心のよき本質を高めるための教育に寄与していくこととなります」
「州政府や友人の皆さんのご支援に、私は心から感謝しています。このセンターの名前は、“ダライ・ラマ”の名にちなんで付けられましたが、私もまたナーガールジュナ(龍樹)の弟子として、ナーランダー僧院の伝統を学んでいるひとりにすぎません。海外の国々を訪問するとき、私は自分のことを古代インドの智慧を伝えるメッセンジャーであり、インドの息子である、とお話ししています。私の頭の中はナーランダー僧院の伝統思想でいっぱいであり、からだもほぼ58年間にわたってインドの伝統的な食事である豆のカレーとご飯とチャパティ(薄い円形のパン)で養われてきたのですから、これは本当のことです」
続いて質疑応答に入ると、ある質問者が、「人間の心のよき本質を高めるための教育に、親はどのように取り組むべきか教えてください」とお願いした。法王は、「母親と子どもの身体的な触れ合いが子どもによい影響を与えることは、科学的にも証明されていることですが、さらに大切なことは、親が子どもにできるだけたくさんの愛情を注ぐことです」と述べられた。
次の質問者が、「どのように死を迎えたらよいか教えてください」とお願いすると、法王は、次のように述べられた。「それはどの宗教を信心しているかによって異なります。創造神としての神の存在を信じている人は、死に際に神の愛や慈悲を思い、仏教徒は、仏陀の教えである慈悲や、すべての現象はそれ自体の側から独立して存在しているのではないということを忘れないことです。また仏教徒には、死が現実に訪れた時に最も微細な意識である光明の心を顕現させることができるよう、意識が次第に微細になっていく八つの段階の観想を日頃から実践しておくという方法もあります。しかし、最善の方法は、できるかぎり他者を助け、少なくとも他者を傷つけないという生きかたをすることです。そのように生きることができれば、何の後悔もなく死ぬことができるでしょう。安らかな死を迎えられるかどうかは、人生をどのように生きたかに依存する部分が多いのです」
最後に司会者が、若さの秘訣について尋ねると、法王は、「それは秘密です!」と応じられたものの、夜は9時間の睡眠を取り、毎朝3時に起床して4時間の瞑想を行なっておられることを説明された。そして、睡眠と瞑想が心の平和や心の強さを維持するために役立っていることを示唆されると、「これは、やろうと思えば、皆さんにもできることです」と述べられた。
法王は、車に乗り込まれると、アムリトサル行きの飛行機に乗るためにラジーヴ・ガンディー国際空港へ向かわれた。そして明朝、アムリトサルから車でダラムサラに戻られる。