インド、デリー
今朝ダライ・ラマ法王は、ジーザス・アンド・メアリー女子修道院に車で到着され、スミタ・ヴァツ氏の出迎えを受けられた。この修道院は、デリーで一番大きなシーク教寺院であるバングラ・サーヒブ寺院の近くにある。ヴァツ氏はインド伝統遺産協会(Indian Tradition and Heritage Society / ITIHAAS)を創設し、会長を務めている。この協会は、子どもたちがインドの伝統や文化遺産から急速に疎遠になっている現状を懸念して誕生した組織である。
「私は、皆さんのような方々にお話するときにはいつも、“兄弟姉妹の皆さん”とご挨拶してから講演を始めますが、これには理由があります。私たちは皆、同じ人間であり、この世界に住む70億人のうちのひとりです。私たちは皆、同じように生まれ、同じようにお母さんから愛情をこめて育てられ、同じように生き、同じように死んでいきます。私たちは、肉体的に同じであり、精神的にも感情的にも同じです。私たちの誰もが同じように喜びを感じ、苦しみを感じているのです」
法王は、誰もいない知らない土地で道に迷ったときのことを例にあげて、次のように述べられた。「私たちは、誰もいない知らない土地で迷ったとき、偶然に誰かと出会ったならば、国籍や信仰、人種のことなど考えずに相手を人間同士の仲間として嬉しく思うはずです。私たちは、いつもこのような態度でいるべきです。私たちはこの世界で、貧富の差のさらなる拡大など、数々の大きな問題に直面しています。気候変動によって引きこされる自然災害や人口増加、腐敗やカーストに基づく差別などの人間が作り出した難しい問題を、私たちは協調して解決していかなくてはいけません」
法王は、目の前で講演を聞いている21世紀を生きる若い学生たちに向かって、世界をより幸福でより平和にしようという堅い決意を持つようにと訴えられた。また、自分のすぐれた知性をよい心の動機に基づいて活用し、前向きな変化をもたらしてくれるやさしい心を育むように求められた。
問題が起きた時、怒りで応じることには何らかの利点があるのではないか、という学生からの質問に対して、法王は次のように答えられた。「まずその問題を分析して、対処できるとわかったなら怒る必要はありません。もし対処できないとしても、怒りは事態を悪化させるだけです。同様に、暴力を使っても究極的な解決にはつながりません。世界平和を実現するには、まず自分自身の心に平和がなければなりません。家族が仲良く、お互いに相手を信頼し、愛情を持っているならば、たとえ物質的に恵まれていなくてもその家族は幸福なのです」
ひとりの若者が世界のために役に立てることなどあるだろうか、と疑問に感じている学生に対して、法王は答えられた。「その気持ちはよくわかります。しかしながら、マハトマ・ガンジーのような偉大な方でもあなたと同じように感じたことがあるに違いありません。それでも、穏やかな勇気と、インドの自由のための闘いに確かに貢献しているという自信を持って行動されたのです」
法王は、インドが長い年月にわたって多様性と宗教間の調和という伝統を築き上げてきたことをもう一度繰り返して称讃された。
講演が終わると、法王への感謝が表明され、カタ(チベットの儀礼用のスカーフ)が贈られた。
昼食後、150人の聴衆を前に、法王はテレビ番組『オフ・ザ・カフ』(Off the Cuff)のシェーカル・グプタ氏のインタビューに応じられた。グプタ氏から「どうしていつも穏やかでいられるのでしょうか」と質問されて、法王は次のように答えられた。
「私は、ナーランダー僧院の伝統を学ぶ者ですから、常に自分が直面している状況や、それに対する自分自身の感情的な反応を分析するようにしています。そして、いつも、より広い視野からものごと見るように努め、楽観的であり続けるようにしています」
インタビューの中で、神の存在について何度か議論が交わされた。「私自身は仏教の比丘としての修行をしていますが、愛の本質を持つ創造主としての神への信仰は非常に強力であることを認めています」と法王は述べられた。
グプタ氏はインタビューの締めくくりに、法王に対して感謝の気持ちを述べて次のように語った。「法王は宗教家の中でも他に類を見ない方です。法王はときどき“私にはわかりません”とはっきりお答えになりますが、それは法王ならではの、特に称讃されるべき点だと私は思います」