和歌山県 高野山(シェーラブ・ウーセル 記 / Phayul.com)
高野山大学の松下講堂黎明館で行われた討論の内容は、細胞の遺伝子情報から法身についての難解な仏教思想まで多岐に渡り、ダライ・法王は両極にある人間が持つこれらのすばらしい知性についてお考えを詳細に示された。
高野山大学松下講堂黎明館で開催された対談で科学者たちと話されるダライ・ラマ法王。2011年11月3日、高野山(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁) |
日本の聖地のひとつである高野山ご滞在の最終日、チベットの精神的指導者である法王は2つの対話に臨まれた。ひとつは先進研究で日本を導く科学者たちとの対話であり、もうひとつは真言密教の伝統を何世紀もの間支えて来た学識豊かな高野山大学の教授たちとの対話であった。
現代科学と仏教科学の対話で、法王は、著名な物理学者である佐治晴夫氏、東京のソニー・コンピューター・サイエンス研究所研究員のナターリア・ポリュリャーフ氏、脳科学者の茂木健一郎氏の発表に注意深く耳を傾けられ、その質問に答えられた。
独立した永遠不滅の実体は存在しないと主張する仏教哲学について説明されたダライ・ラマ法王は、相互依存性という概念なしには時間の性質を理解することはできない、と述べられた。
高野山大学松下講堂黎明館で開催された対談で参加者に謝意を表されるダライ・ラマ法王。2011年11月3日、高野山(撮影:チベットハウス・ジャパン) |
「詳しく分析してみると、時間にも独立した実体はありません。過去は記憶であり、未来はまだ生じていないからです。従って、現在について考えることが大切であり、時間を適切に意義深く活用する。それが最も重要なことなのです」と、法王は述べられた。
予定時間を大幅に過ぎた対話の後、佐治晴雄氏は、法王がそのお考えと「洗練された知識」を出席者と分ちあってくださったことに感謝の意を表した。
「法王様のお言葉を聞き、自分の分野でより多くの仕事がしたいと思えるようなよい刺激を受けました。」と佐治氏は語った。
対談の後でパユル(Phayul)のインタビューに応えたナターリア・ポリュリャーフ氏は、仏教科学と実際の生物学が密接に関係していることに驚いた、と述べた。
「ダライ・ラマ法王のお話で、点と点が結ばれ、幸福感や怒りという感情が私達の健康に直接関係していることが理解できました」と、ポリュリャーフ氏は語った。
高野山大学松下講堂で開催された午後の対談でのダライ・ラマ法王と高野山大学の教授陣。2011年11月3日、高野山(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁) |
その日の午後遅く、法王は藤田光寛学長を始めとする高野山大学の教授陣と会われた。日本の仏教徒が示した「熱心さと真剣さ」に感銘を受けられた法王は、日本とチベットの仏教経典や論書を比較研究するための本格的な合同プログラムを始めるべきだというご意向を示された。
「皆様全員が深い関心をお持ちなのですから、高野山大学の教授とインド在住のチベット人が共に経典や論書を詳細にわたって本格的に研究し、議論するプログラムをぜひとも始めましょう」と法王は述べられた。
「皆様の真摯な情熱をこれからの世代のために、長期的な活動として傾けられるのが良いでしょう」と法王は提言された。
高野山大学を訪問されたダライ・ラマ法王に感謝の意を表する聴衆。2011年11月3日、高野山(撮影:チベットハウス・ジャパン) |
過去60年以上にわたり、チベット本土での宗教的自由を失ったチベット人は、難民としての暮らしで大変な苦労をしてきたが、チベット人社会は何世紀も前からの仏教の知識を「完全に」継承し続けることができた、と法王は述べられた。
アジアの仏教国の間で知識を分かち合うことの重要性を指摘された法王は、13億人の人口をもつ中国は、将来の「幸福な世界」の構築に重要な役割を果たすだろうと語られた。
「健全な仏教国を構築することにより、健全なアジアを構築することができます。そして健全なアジアは、健全で幸福な世界を導いてくれることでしょう」と法王は述べられた。
高野山大学から再訪問の招待を受けられた法王は、鳴り響く拍手の中で、「皆様から本物の愛、親切、慈悲をいただきました。また訪れたいと思います」と応えられた。
明日、ダライ・ラマ法王は、3月の津波で最もひどい被害を受けた被災地のひとつである仙台を訪問される予定である。