横浜(チベットハウス・ジャパン 記)
ダライ・ラマ法王は今朝、金沢を出発されて横浜に向かわれた。
午後、法王は、ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルで、約100名の大学生や教育者との対話の場をもたれた。法王の傍らでは、著名なジャーナリストで解説者の池上彰氏が司会進行役を務めた。法王は、参加者に挨拶の言葉を述べられ、21世紀を担っていく若い世代とこうして話ができることをうれしく思う、と語られた。
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルで大学生や教育者と交流されるダライ・ラマ法王。2010年6月24日、神奈川県横浜市(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁) |
法王は、20世紀は暴力の世紀だったが、後半にそれまでの過ちに気づき、より成熟した社会となった、として、次のように語られた。「日本は第二次世界大戦で大変な苦しみを経験しました。しかし原子爆弾の悲劇から見事な復興を遂げ、世界でも最も発展した国のひとつとなりました。すばらしいことです。日本の皆さんは、世界が平和へと向かうように率いていくのに相応しい立場にあるといえるでしょう。」
さらに法王は、世界平和と現在の状況について次のように話された。「あちこちで問題はありますが、全体として見れば、世界はよくなっていると思います。多くの人たちが平和や環境問題について考え、話し合うようになりました。また、物質的な豊かさだけでは完全な幸せを得ることはできないことに気づき、人間の心のよき本質や道徳、倫理を探求し始めています。アメリカとロシアは核弾頭の削減で合意しました。これは大変よいことです。以前は孤立しているように思われた国も、今日では他国と相互依存の関係にあることに気づき始めています。戦争の概念も変わってきています。」
法王は、生涯にわたるご自身の二つの使命について述べられ、第一の使命は人間のよき本質を高めること、第二の使命は異なる宗教間の調和を図ることである、と説明された。参加者との対話に入られると、法王は、さまざまな質問にひとつずつ答えていかれた。日本の長所と短所についての質問に、法王は、日本には神道の長い歴史があり、その信仰を基盤として母なる自然を敬い、大切に守ってきたことをすばらしいと思う、と述べられた。また、第二次世界大戦の悲劇から急速に復興を遂げたこともすばらしい点である、と語られた。一方で法王は、日本は形式にこだわりすぎる傾向がある、とした上で、次のように語られた。「日本は先進国ですが、それにもかかわらず、うつ病や孤独に苛まれている若者が大勢います。これは残念なことです。日本の方々は、物事をもっと広い視野でご覧になるとよいと思います。英語を身につけて海外に出て、日本より遅れている国々を助けてください。世界の多くの場所で、あなた方の経験と専門知識が必要とされているのです。外の世界に目を向ければ、うつ病や自殺などが入り込む余地はなくなるでしょう。」
大学生との対話の会で、ダライ・ラマ法王に質問をする参加者。2010年6月24日、神奈川県横浜市(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁) |
続いて、チベットの人々はなぜ苦境にありながらもほがらかで、生きとし生けるすべてのものを慈しむことができるのか、という質問に、法王は次のように答えられた。「チベットの文化は非暴力の文化です。つまり、平和と慈悲はチベットの文化なのです。例外はあるかもしれませんが、チベット人は概して穏やかです。この穏やかな文化を支えているのが仏教の教えです。ですから、仏教の教えを日常生活で実践することは、私たちにとって大変重要なことなのです。このような穏やかな文化を私たちは守っていかねばなりません。」
人生の目的についての質問に、法王は、次のように答えられた。「人生の目的とは、幸福になることです。物質的な満足によってもたらされる幸せは、一時的なものです。私たちは正直に、そして誠実に生きることで、内なる幸せを求めていかねばなりません。このような幸せは永続的です。思いやりをもつことも大切です。そうすることで、人生は意義あるものになっていきます。これが幸福への鍵なのです。」
チベットについての質問に、法王は、これには中国人の見解、チベット人の見解、国際社会の見解の三つがある、として次のように述べられた。「この三つの見解をよく調べるなら、誰が真実を言っているのか明白でしょう。しかし過去は過去であって、大切なのは将来です。私たちが求めている現代のチベットとは、中国という枠組みの範囲内で、チベットの文化と宗教を自由に享受できる真の自治なのです。」
大学生との対話の会の終了後、参加者と握手を交わされるダライ・ラマ法王。2010年6月24日、神奈川県横浜市(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁) |
中国の胡錦濤国家主席が掲げる「和諧社会」政策について意見を求められると、法王は、調和のとれた社会を目指す政策として高く評価し、実現を待ち望んでいる、とした上で次のように語られた。「しかしながら、調和というものは心で生まれるものです。信頼関係があること、そして秘密がないことが基本です。信頼関係のない社会にどうして調和がもたらされるでしょうか。中国政府は調和の名のもとに武力行使をしています。弾圧や銃で調和は実現できません。中国政府はこの現実を直視し、現実に即した行動をとるべきです。中国政府が人民の政府であるというのなら、人々に発言権を認め、その自由を尊重すべきでしょう。」
この対話は、出版業界大手の講談社がチベットハウス・ジャパンの協力を得て主催した。