金沢 (ツェリン・ツォモ 記 / phayul.com)
ダライ・ラマ法王は、石川県立音楽堂で『般若心経』についての法話をされた。そして、ナーガールジュナ(龍樹)、シャーンタラクシタ(寂護)、ディグナーガ(陳那)、ダルマキールティ(法称)をはじめとする古代インドのナーランダー僧院の偉大な学匠たちが著された論書は経典と合わせると300巻を超えるが、そのほとんどはチベット語に翻訳されたものが残っているだけで、日本語や中国語では読めないのが現状である、と語られた。
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石川県立音楽堂で法話をされるダライ・ラマ法王。2010年6月22日、石川県金沢市(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁)
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法王は、釈尊の教えとこれらの註釈書が翻訳されれば、多くの仏教徒が教えをより深く理解するための助けとなり、とりわけ空の概念を理解するのに役立つだろう、と述べられた。また法王は、日本の尼僧が既に日本語への翻訳に意欲を示している、と述べられ、将来、中国人仏教徒の手によって中国語にも翻訳されるよう期待している、と語られた。
ナーランダー僧院の偉大な学匠たちは、たとえそれが釈尊の教えであろうとも懐疑的な目で疑問を持ち、調べ、分析するべきことを実証された。彼らは現代の科学者のようにあらゆる見解と可能性を考慮した上で物事を懐疑的に捉えていた、とダライ・ラマ法王は解説された。「釈尊ご自身も、弟子たちに自分の言葉を鵜呑みにすることなく、自らの智慧と認識力を使って検討するよう説かれています」と法王は語られた。
また法王は、一般的に仏教徒はナーランダー僧院の学僧たちを“偉大な宗教家たち”と呼んでいるが、法王ご自身はどちらかというと、ナーランダー大学の“偉大な教授陣”と呼びたい、と述べられた。そして、科学者の中には仏教は宗教ではなく、科学であるという人もいるが、それもまた然りである、と述べられた。
法王は、熱心に聞き入る2,000名の参加者に向けて、『般若心経』をただ唱えるだけでなく、その教えを学んで意味を理解するよう語りかけられた。「読んで、考えて、疑問を持ってください。21世紀の仏教徒になってください。」また法王は、仏教の日々の実践とは、助けを必要としている人たちの役に立つ行ないをすることであり、無限の思いやりを生み出すには分析的瞑想を行なうことが大切である、と強調された。「ただ目を閉じてすばらしい考えに思いを馳せていても、それを実践しなければ希望的観測で終わってしまいます。」
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法話会の参加者と握手を交わされるダライ・ラマ法王。2010年6月22日、石川県金沢市(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁)
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法王は、ご自身の経験を語られて、子供の頃に現代科学に強く惹かれ、現代科学を学びたいと願っていたが、当時は科学の授業を受けることのできる機会はなかった、と述べられた。しかし、法王はこの30年間、国際会議などで多くの科学者や専門家たちと交流され、天文学、神経学、原子物理学、とりわけ量子物理学などの分野において科学者との対話をされてきた。そして、法王はそのような対話を通じて、量子物理学がナーガールジュナの仏教哲学ときわめて類似していることに気づかれたのである。
質疑応答に入ると、これまでにチベットを9回旅したという日本人女性が、チベットでは人々が命あるものをとても大切にしている場面を幾度も見た、と語り、バスで旅行していた時には運転手がわざわざ車を止めて車内のハエを外に出してやったり、ラサのホテルでネズミが出た時には従業員が捕まえて窓から逃がしてやったりしたが、それも仏教の教えによるものなのでしょうか、と法王に訊ねた。
法王は、チベットの文化は思いやりと非暴力の文化であり、誰もが小さな頃からその精神を繰り返し教わっている、と答えられ、「チベット文化を保護することは慈悲の文化を保護することなので、意義のあることなのです」と述べられた。