金沢
「ダライ・ラマ法王と科学者との対話―日本からの発信」が2日間にわたって東京のホテルオークラで開催された翌日、ダライ・ラマ法王は午前中すべての時間を使ってホテルの自室で謁見やインタビューに応じられた。
日本の大学から来年の招聘の申し出を受けられると、法王は、さまざまな学校や大学の若者たちに会われるたびに抱かれるよろこびや充実感について語られた。そして、これからの世界を築いていく若い世代へのアドバイスとして、次のように述べられた。「信仰を持っている人も、持っていない人も、私たちは皆心の平和を求めています。心の平和は、私たち自身の内なる心に育んでいくものです。心の平和を突き詰めていくと、その源は内なる心の強さであって、お金でも権力でもありません。私たちはこのような内面的価値にもっと目を向けていかねばなりません。」
また法王は、東京MXテレビのインタビューの中で、2日間にわたる日本の科学者との対話について次のように語られた。「幸先のよいスタートだったと思います。次の対話を待ち望んでいます。次回は、西洋の科学者たちの集まりである心と生命の研究所(マインド・アンド・ライフ・インスティチュー)トと連携できるとよいと思っています」と述べられた。
伝統ある仏教国である日本の仏教徒へのメッセージを求められると、法王は、「日本の仏教徒の皆さんは『般若心経』を唱え、儀式に参列するだけで充分だと思っていてはいけません。大切なのは仏教について勉強することです。宗教としての仏教、哲学としての仏教、科学としての仏教というこの3つの側面についてしっかり勉強してください」とアドバイスされた。
さらに法王は、仏教を実践する上で大切なこととして、「私たち仏教徒は、人間の知性を最大限に用いて悪い感情をよい感情に転換していかねばなりません」と語られた。
そして日本語に翻訳されたばかりの法王のご著書『宗教を超えて』の中で説かれた世俗的倫理について、法王は次のように述べられた。「この世には70億の人間がいます。そしてその中の約10億人の人たちが宗教に関心を持っていません。自分には信仰心があると主張する人たちでさえ、汚職や不正をはじめ悪事を平気で行なうことがありますが、その原因は、罪の自覚あるいは基本的な人間的価値というものが欠けていることにあるのだと思います。これは神の存在を受け入れている宗教であれ、受け入れていない宗教であれ、本質的にすべての宗教に共通することです。ですから万人に共通する体験や科学的に証明された事実に基づいて、世俗的な倫理観を育んでいくことが大切なのです。」
飛行機は晴れ渡った東京の空を上昇し、やがて雲を突き抜け、石川県の小松空港に着陸した。金沢市へ向かう車中、法王はわずかな仮眠を取られた。佛性會に到着されると、若者から高齢者までさまざまな年代の信徒たちが法王を出迎えた。法王は金沢に2日間滞在され休養を取られる。